株式会社オリィ研究所 共同創設者 代表取締役所長の吉藤オリィ氏はセレモニーで「念願だった常設実験店をオープンすることになった。親友で秘書だった番田雄太の話をさせていただきたい。彼は交通事故で首から下が動けなくなった。移動できない、外出ができない彼は『出会いと発見がないことが一番のハンディキャップなんだ』と言っていた。
彼はOriHImeを遠隔操作することでお金を稼いでいたが、『世の中は身体至上主義だ』と言っていた。現在の社会は『体を運ぶこと』を前提としてデザインされている。肉体労働をテレワークで行なうことができないかということで番田雄太と一緒に考えていたのが『分身ロボットカフェ』だった。しかし人は生きている限りどこかで外出困難になる。我々は移動困難になったあと、どう生きていくかロールモデルを持っていない。この分身ロボットカフェを通して身体が動かなくなったとしてもどうすれば自分らしく生きていけるかを探っていきたい。
番田は3年前に亡くなってしまったが同志が集まっているのがこの分身ロボットカフェ。我々が目指すのは『脱分断』。一緒にカフェを作ってきた仲間たちと働き、仲間意識を持てる社会を作っていきたい。我々は今まで『できない』と言われた多くのことを『できる』に変えてきた。遠隔地にいても働けるようにしたい」と述べて、遠隔操作される「OriHime D」を呼び込んだ。
分身ロボットのパイロットの一人で、島根県松江市在住の三好史子さんは「OriHime D」を遠隔操作して、挨拶に登壇。三好さんは「これまで働けるとは思っていなかった。カフェで働くようになって繋がりが増えて自分にできないことはないと考えるようになった。誰もが人との関わりを持ちながら働くことが当たり前の社会にしていきたい」と語った。
最後に吉藤氏は「我々の感じる不自由を次世代に遺さない。このカフェは『大量の失敗』を提供する。新しい挑戦を行い大量の失敗を作り、繰り返しながら、この研究を続けていきたい。これからもご注目をお願いしたい」と挨拶を締めくくった。
「大量の失敗の提供」がこの実験店の貢献だという続けて、アドバイザーの乙武洋匡氏が登壇。乙武氏は第1回から分身ロボットカフェに携わっており感無量だと語り、「今から25年前、大学1年生になった私はアルバイトでもしたいと考えた。できる仕事とできない仕事があるが、喋るのは得意なのでテレフォンアポインターならできるのではないかと考えたが、3社続けて落ちてしまった。障害者は仕事するのが難しいと実感した。悔しかったし、焦った。
幸い、大学時代に出版された本が多くの人に読んでもらえたので仕事を続けることができているが、あの本がなければ今でも仕事を続けられているかどうか自信がない。吉藤氏が語ったように『体を動かすこと』が前提の社会だからだ。自分で身体を動かすことができない人はマイノリティになってしまう。その状況を変えてくれたのがこの分身ロボットカフェだ」と述べて、以前、カフェでの接客を受けたときの経験エピソードを語った。そして「常設店になったことを考えると胸がいっぱいになるし、私自身の老後に希望が持てる」と述べた。
分身ロボットカフェ アドバイザー 乙武洋匡氏さらに特別協賛社の日本電信電話株式会社、バイオジェンジャパン株式会社、三井不動産株式会社の3社代表者が登壇。日本電信電話株式会社 ダイバーシティ推進室 室長の池田円氏は、「NTTは2019年に大手町に分身ロボットカフェをオープンしたときにも協賛しており、今回が2回目。そのときに私も初めてパイロットの皆様に会うことができた。病院に何年も入院している方が『また働けるとは思わなかった』と語ってくれたのを聞いて、なんと素晴らしいICTの使い方なんだと思った」と述べた。
NTTグループでは2020年から本社受付業務に「OriHime-D」と障碍者による受付業務の本格導入を行なっている。今回のカフェでも、NTTのコミュニーケション基盤構想を実現するための実証実験を行なう。低遅延技術によってパイロットのストレスを減らし、ロボット適用領域を拡大することを目指す。
日本電信電話株式会社 ダイバーシティ推進室 室長 池田円氏バイオジェン・ジャパン株式会社 代表取締役社長のAjai Sulekh(アジェイ スレイク)氏は「バイオジェン・ジャパンは神経疾患薬の開発に取組んでいる製薬会社。神経難病と共に生きている方が夢や希望を持っていけるよう、様々な取り組みを応援している。不可能を可能にというビジョンを掲げている製薬会社。オリィ研究所と同じビジョンを持っていると考えている。この分身ロボットカフェの成功を祈っている」と語った。
バイオジェン・ジャパン株式会社 代表取締役社長 Ajai Sulekh氏三井不動産株式会社 ライフサイエンスイノベーション推進部 部長の三枝寛氏は「弊社はこの場所の提供という形で協賛している。我々は日本橋に賑わいを作りたい、ライフサイエンス領域を盛り上げたい、この2点を理由として協賛している。日本橋には130社のライフサイエンス関連企業が集積している。ここ日本橋EASTエリアの玄関口である『日本橋ライフサイエンスビルディング3』8Fのラウンジには『OriHime Biz』を設置している。注目度の高い分身ロボットカフェによって、これまで来なかった人たちが来てくれて、新しい賑わいを作ってくれることを期待している」と語った。
三井不動産株式会社 ライフサイエンスイノベーション推進部 部長 三枝寛氏分身ロボットカフェ共同事業者である株式会社カンカク 代表取締役の松本龍祐氏は「我々はキャッシュレス・カフェを運営しているスタートアップ。カフェ運営事業だがメンバーの半分くらいはエンジニア」だと自社を紹介。
そして「我々は“Building the Next Ordinary.”(新しいライフスタイルを作る)、つまりテクノロジーで新しいライフスタイルを作り出すことをミッションとしている。カフェの運営にもテクノロジーを導入してDXに取組んでいる。分身ロボットカフェ『DAWN』の取り組みは利便性を増すだけではなく、生活を一変させる取り組みだと思っている。だからぜひやらなければと思った。飲食店や接客の新しい姿を指し示せる可能性を感じている。新しい取り組みが満載の店舗なので最初はスムーズにいかないかもしれない。ぜひ多くの方の応援を頂きたい」と語った。