BlueMeme 代表取締役社長 松岡真功氏
デジタル庁が設立され、ITベンダーからはDX(デジタルトランスフォーメーション)人材育成の新サービスが提供されるなど、2021年は日本国内でDXが意識された年となった。【画像】BlueMemeが提案する開発プロセス「AGILE-DX」そんなDXの黎明期、2021年6月にローコードツールやアジャイル開発の導入コンサルティングなどの事業を展開するBlueMeme(ブルーミーム)が東証マザーズに上場した。同社代表取締役社長の松岡真功氏に、2021年の基幹システム開発の動向を振り返ってもらうとともに、今後のローコード開発の国内での広がりや同社の事業展望を聞いた。松岡:従来のIT投資は、業務データのデジタル化によるバックオフィス業務の省力化や、業務プロセスの自動化によるフロントオフィス部門の省人化が目的でしたが、ITやデータを用いてマネタイズしよう、という発想が経営者に浸透してきているように思います。マッキンゼーの調査によれば、2005年から2014年までの間で国境を越えたデータの移動は45倍に増えており、現在はさらに増えていることが推察されます。また、SNSやプラットフォームサービスのユーザー数は、いまや国の人口を遥かに超えており、データやデジタルを活用できるかどうかが、企業の成長を左右する時代になってきています。変化の激しい時代に顧客ニーズの変化に対応するためには「柔軟性」と「スピード」が欠かせません。スピーディかつ柔軟にデジタルビジネスへと対応するための体制を整えるために、早い段階で危機感を抱いた企業がエンジニアなどのIT技術者を自社で雇おうと動き始めている、と現状を捉えています。--国内の情報システム部門の抱える課題についてはどう見ていますか?松岡:現在の情報システム部門にとっての課題は「モバイル」と「クラウド」です。かつては、業界ごとのフレームワークに則り、情報システム部門が独自に業務システムを作ってきました。しかし、現在、ビジネス現場ではタブレットでもネイティブに動くアプリケーションで業務を進めたい、業務で使う端末からもインターネットに接続したい、というニーズが高いです。そのため、情報システム部門には、社内システムのクラウド化とそれに適したモバイル向けのシステム開発が求められています。モバイルとクラウドに対応する施策を検討する中で、ローコード開発に関心を示すシステム担当者の方も少なくありません。加えて、モバイルのOSはiPhoneとAndroidに対応できていればおよそ問題ないので、自社でイチから開発するのでなく、グローバルで活用されている既存のプラットフォームやサービスを活用しようとする動きも多いです。--モバイル活用のニーズとは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?松岡:例えば、Eコマース関連のサービスがあります。エンドユーザーの多くがネットで物を買う際にスマートフォンで注文するとなると、当然、基幹システムやバックグラウンドの販売管理システムも、すべてモバイルに対応できていなければなりません。ほかにも、製造業における工場全体のリモートメンテナンスではロボットやセンサーなどが活用されますが、その管理はタブレットで行うのが主流になっています。タブレットはGPS、音声、映像、通信など、現場の業務で必要な機能が1つにまとまっているうえ、パソコンと違ってファンが付いていないため工場に持ち込めます。ビジネスでのニーズの高まりは、そうした使い勝手の良さも背景にあるでしょう。要件定義は先送り、経営資源となる「データやノウハウ」を分析 --他方で、国内企業のIT全般における課題は?松岡:基幹システムの開発プロセスそのものに、まだまだ改善の余地があると考えます。基幹システムの開発ではほとんどの場合、まず要件定義を行い、その段階で業務プロセスを分析します。要件定義に従ってどんなシステムにするかを決めて、設計、実装、テストを経て、実際の運用に至ります。しかし、当社がこれまで関わってきた企業からのヒアリングでは、時間をかけて要件定義を進めるものの、社会環境や業務の変化に合わせて要件定義をやり直すことになり、開発になかなか着手できないというケースが多く見受けられました。業界によっては要件定義を5~6年やっている企業もありました。従来は社会環境や業務プロセスは10~20年ぐらいは変わらなかったことでしょう。でも、今は顧客ニーズも高度化していて社会環境も大きく変わりやすいため、業務プロセスも陳腐化しやすい。そのため、当社では2019年ごろから、「そもそも、最初に要件を出しきるのが難しくなっているのではないか?」と考えています。大きな社会環境の変化に限らず、工場や営業所が1つ増えるだけでも業務プロセスは変化するため、その都度システムにも変更を加えないといけません。システムの開発途中で業務プロセスが変わってしまったら、そのタイミングが開発工程の後半であればなるほど変更のための工数がかかり、いつまでも経っても開発が終わりません。一方、システムの中でやり取りされるデータや、事業で培ったノウハウにはそれほど変更が加わることはありません。そこで、当社では経営資源となる「データやノウハウ」を分析し、APIでデータをうまく活用できるアーキテクチャを先に設計・実装して、細かな要件定義や業務プロセスに則ったシステムはローコードを活用したアジャイル開発で行う「AGILE-DX」というプロジェクト管理手法を提案しています。--具体的にはどのように開発を進めるのでしょうか?松岡:「AGILE-DX」は細かい工程を何度も繰り返して開発を行うアジャイル手法と、設計データに基づいてソースコードを自動生成できるローコード技術を組み合わせた開発を実現する当社独自のプロジェクト管理手法です。開発手法としては、クラウド上のオープンなAPIを組み合わせて、企業のデータ構造や既存のビジネスロジックに即したシステムをいったん構築し、その後に業務プロセスに合わせてシステムに変更を加えていきます。要件定義は先送りしつつ、業務プロセスの分析を都度行い、変更に合わせて既存のAPIから必要な機能を選択し利用します。イメージとしては、タクシーの配車アプリの開発に近いです。タクシーの配車アプリは通信、決済、メール配信、データ分析、地図など、インターネット上にすでに公開されているAPIを組み合わせて作ることが可能なのですが、「基幹システムでも同じようなことができるのではないか?」という発想で始めました。私はシステムそのものには価値はなく、システムを使って行う日々の事業活動から生成されるデータに価値があると考えているのですが、この開発手法では「データが流れるシステム」の構築を目標としています。--新しい取り組みを進める中で、注目している技術トレンドはありますか?松岡:基幹システムにNoSQLの利用が広まっているのは、従来には無い新しい動きだと思います。これまで、基幹システムにはOracleやMicrosoft SQL Serverなどのリレーショナルデータベースを使うのが当たり前でしたが、NoSQLとSQLを組み合わせたハイブリッドが増えてきています。リレーショナルデータベースを使った開発では、テーブルの設計自体はそれほど工数がかからないものの、ロジックもGUIもテーブルに依存しています。UI(ユーザーインターフェース)に変更を加えたい時にはテーブルを作り直さねばならず、その点が煩雑でした。現在のNoSQLの採用は、そうしたテーブルへの依存を減らすために行っているケースがほとんどです。また、テーブルへの依存を断ち切るためにAPI基盤を入れる企業も増えています。SQLからの指示をAPIでXAMLやJSONに変換してビジネスロジックやUIに返すので、ビジネスやUIに変更があってもAPI基盤で吸収できるのが利点です。API基盤の導入をローコードで開発する企業も現れていますし、iPaaS系のサービスがAPI基盤の機能を提供し始めており、それらを単体で導入してAPI基盤を実装する企業も増えています。--2022年の抱負を教えてください松岡:基幹システム開発にローコード、アジャイル、そしてAPIで変革を起こしたいです。具体的には、まずウォーターフォールではなくAPIファーストな開発手法の認知度を高めていきます。また、2021年後半からは企業活動を分析する上流工程のニーズが増えてきているので、そちらの対応力も強化していきたいです。2019年までは全体の5%ほどの割合でしたが、この2年で相談件数が倍に増えており、担当チームも2人から7人にメンバーを増やしました。11月17日の第2四半期決算を発表し、増収増益という好調な結果とともに当社のビジネスモデルや成長戦略もあらためて示せました。今後もさまざまな形で当社の考えや活動も発信していきます。
田鍋隼