アン・ヒギョン|在米ジャーナリスト
<2021年12月27日、ソウル江南(カンナム)のあるカフェで、私は予防接種履歴管理アプリ「クーブ(COOV)」を立ち上げた。米国でのワクチン接種記録を保健所に登録してあるため、もう誰でも見ることのできる手書き名簿に記録を残さなくてもいいとの安堵から、私はスキャナーに携帯電話を通した。結果は「スキャン不可」!
<50代半ばの2人の友人は、パク・スグン展を見るために立ち寄った徳寿宮(トクスグン)国立現代美術館で門前払いを喰らった。現場での購入も可能だとの展示案内サイトの謳い文句とは異なり、現場ではインターネットでの購入だけを認めていた。2000ウォン(約191円)の入場料を支払うために、その2人はスマートフォンの画面に顔を寄せ、独り言なのかサイトに書いてある文章に対する答えなのか、ブツブツつぶやきながら指を動かした。だが、とうとう諦めて故宮を散歩することにした。ヒーヒー言いながら機械に服従しようとしているのに何度も失敗する悔しさを、それ以上あじわいたくなかったのだろう。
<84歳の私の母も、サムスンカードを解約するために、カードを作ることを強く勧めた大手スーパーにバスに乗って出かけたが、カード会社の事務所は消えており、インターネットでキャンセルしろとばかり言われた。その虚無のせいだろうか。母は、30年近く通った交差点がどこかの知らない場所のように見えて、しばらくぼうっとしていたと告白した。歩いて、あるいはせいぜいコミュニティーバスに乗って用事を済ませていた世は消えつつある。
<2019年夏、一群の女性労働者たちがソウルの有料道路の料金所の上に立った。彼女たちは1500人にのぼる集団解雇を撤回させるために抵抗した。2022年冬、さらに増えたハイパス(有料道路の自動料金徴収システム。日本のETCに相当)を通過する多くの人々は、誰が闘いの主体なのか知ることすらできない「デジタル資本主義」という旋風の中にいる。第4次産業の中の成長が叫ばれてはいるが、現実は非常に具体的な不平等として襲ってくる。これは消費者の権利と公共サービスを略奪する破壊であり、反復記号のように労働市場の破壊へと傾いてゆく。「許可されていない行政の外注」であり、企業の利潤のために国民のうつに努めて知らないふりをする政府のサボタージュでもある。
//ハンギョレ新聞社
アン・ヒギョン|在米ジャーナリスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1028231.html韓国語原文入力:2022-01-20 21:59 訳D.K