NRI研究員の時事解説
経営危機にある中国恒大集団が、ドル建て公募社債で初めてのデフォルト(債務不履行)を引き起こしたと見られる。他方、このことは、政府が強く関与する形で、海外債権者との間で返済期限の繰り延べや元利返済の削減などの債務再編(リストラ)交渉が本格的に始まる兆候、と読むこともできる。ようやく債務再編(リストラ)交渉が始まることは、問題解決に向けた第一歩と前向きに評価できるのではないか。日本時間7日に、中国恒大はドル建て債の8,249万ドル分の利払いの期限を迎えた。11月6日が当初の期限であったが、30日間の猶予期間が続いていたため、7日が最後の期限となっていた。これまでも恒大は当初の期日に支払えず、30日間の猶予期限の最終日までに支払いを延ばすことを繰り返してきた。しかし今回は、猶予期限が過ぎても支払いを確認できていない、と複数のメディアが報じている。恒大の公募債としては初の債務不履行(デフォルト)になったと見られる。米格付け会社S&Pグローバルも、「恒大のデフォルトは避けられないようにみえる」との見解を示している。また、この先来年3、4月にドル建て社債計35億ドルが満期を迎えるが、「資産売却は巨額の償還をするのに十分ではない」との見方も示している。中国恒大は3日に、債務再編に向けて海外の債権者と協議に入ると発表していた。同社は、現在の条件の下ではドル建て社債の利払い、償還は無理と判断したのである。海外投資家と債務再編交渉に入れば、一部の利払いだけを優先的に履行することは適切でなくなる。そうした中立性の観点から、中国恒大は7日に最終期限を迎えた今回のドル建て債の利払いを、意図して履行しなかったのだろう。
中国恒大の海外債務の返済が難しくなったことを受けて、中国当局も債務再編交渉に積極的に関わる準備を始めている。当局は中国恒大に対して、住宅購入者と納入業者、理財商品を購入した個人投資家を債券保有者より優先することを今まで求めてきた。債券保有者の中でも外貨建て債券の保有者である海外債権者の弁済順位は、最下位に位置付けられているとみられる。それでも、無秩序なデフォルトが繰り返され。海外投資家からの信頼をいたずらに悪化させるような事態は回避したいのであろう。地元の広東省政府は3日に常駐の監督チームを中国恒大に派遣した。また6日には恒大社内にリスク管理委員会の設置を決定している。その委員会トップには創業者の許家印氏に加え、広東省政府が出資する国有企業の幹部を据えた。さらに、中国人民銀行(中央銀行)などの全面的な監督・指導も加わり、かなり手厚い体制で、外貨建て債務の再編交渉を行っていく構えだ。中国恒大の外貨建て債務が初めてのデフォルトを起こしたとしても、このように中国当局が恒大問題に積極的に関与をし始めたことは、中国恒大の外貨建て債務を保有する海外投資家や金融市場全体にとって、問題解決に向けてようやく動き出した、との期待を高めるものである。