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今泉力哉監督インタビュー「猫の動きについて、脚本に無茶なことは書けないなと勉強になった」映画「猫は逃げた」公開

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『愛がなんだ』『あの頃。』など数々の話題作を手掛け、今もっとも注目される監督、今泉力哉監督と、Vシネマ・ピンク映画界のトップランナーの城定秀夫監督が、お互いの脚本を提供し合いR15+のラブストーリー2本を製作するという“L/R15”というプログラムを始動。今泉監督が手掛けた、飼い猫をどちらが引き取るかで揉める離婚直前の夫婦とそれぞれの恋人、不器用な4人の男女を描いたラブコメディ『猫は逃げた』が、3月18日(金)より公開する。今泉監督が、独自の演出論や久しぶりに撮ったラブシーンについて。さらに、大阪NSC生だった今泉監督が、いま気になるお笑い芸人まで語ってくれました。

4人とも僕の好きな芝居の温度やトーンができそうな、人間味のあるお芝居ができる方です

──『猫は逃げた』は、『アルプススタンドのはしの方』で知られる城定秀夫監督とのコラボ企画である「L/R15」の一本ですが、その経緯は?

今泉 プロデューサーの方から、「城定監督と一緒に共作しませんか?」というお話をいただいたのがきっかけです。先輩の城定さんと作品を作れるというお話はうれしかったですし、子供の保育園も一緒という縁もありまして(笑)。それで僕が脚本を書いて城定さんが監督する『愛なのに』と、城定監督が脚本を書いて僕が監督する『猫は逃げた』ができたんです。

──その2作品を制作するにあたって、お互いにルールみたいなものは?

今泉 2本ともR15+指定のラブストーリーで、セックスシーンがあることだけは先に決まっていました。そのほかに、どちらかが20代、どちらかが30代の恋愛を描くといったルールなど、いくつか考えたのですが、最終的にはお互いが好きなものを脚本として書いて、それを渡す感じになりました。僕が書いた脚本は、いつも撮っているような話にラブシーンを入れた感じですが、城定さんはあえて僕の作品っぽい脚本を書いてくださったような……。僕自身、昔撮っていた短編の匂いがしました(笑)。

──今泉監督の映画といえば、群像劇におけるキャスティングの絶妙なバランス。本作で山本奈衣瑠さん、毎熊克哉さん、手島実優さん、井之脇海さんを選ばれた決め手は?

今泉 山本さんと手島さん、女性2人に関してはオンラインから始まったオーディションで、最終的には直接お会いして決めました。モデル出身の山本さんが、お芝居もされていることをよく知らなかったのですが、とても魅力的な方で惹かれました。手島さんは作品を観ていましたし、面識もありましたが、そういうことと関係なく、オーディションのお芝居で決めました。毎熊さんと井之脇さん、男性陣に関してはキャスティング・ディレクター経由です。4人ともテクニカルな部分でなく、僕の好きな芝居の温度やトーンができそうな、人間味のあるお芝居ができる方というのは共通しています。

──ちなみに、俳優の新たな魅力の引き出し方はありますか?

今泉 よく、「同じ俳優さんでも、今泉監督の映画ではより魅力的になっている」と言っていただけるのですが、それはたぶん、ほかの監督さんの方が僕より、演出というか「こうしてほしい」と言ってるんだと思うんです。『猫は逃げた』もそうですが、自分がいいと思う俳優さんを選んでいるので、お任せの度合が高いんですよ。僕は役者さんが本来持っているものを使っていきたいし、ズレていなければ、本人のアイデアも取り入れていきたいと思っていますし。自分が頭に思い描いていたものと全然違うお芝居をされたときも「そういう方法があるのか!」「そういう脚本の読み方ができるのか!」と思うこともありますね。ただ、芝居をするうえでの早さと熱量、あと“相手に対する好き度”に関しては、できるだけ細かく伝えるようにしています。

セックスという行為そのものというよりは、その前後の方が興味ある

──12年の『ヴァージン』以来、久しぶりにセックスシーンを撮ったことに関しては?

今泉力哉監督インタビュー「猫の動きについて、脚本に無茶なことは書けないなと勉強になった」映画「猫は逃げた」公開

今泉 うーん、やっぱり難しいですね(笑)。ピンク映画をたくさん撮られている城定さんとも話したんですが、行為に至る前後の空気はやりようがあっても、行為中の撮り方は決まってしまうんですよ。自分も久しぶりに撮ってみて、セックスという行為そのものというよりは、その前後の方が興味あるんだなと、改めて気づかされました。あと、行為中の腰回りが映ってしまうとR18+になってしまうため、「これ大丈夫ですかね?」と、プロデューサーに確認しながら撮ってしました(笑)。

──劇中、行方不明になってしまう飼い猫・カンタのお芝居は?

今泉 カンタはオセロというタレント猫なんですが、まあそこは猫ですから、そんなに言うこと聞かなかったです(笑)。キャットフードの「CIAOちゅ~る」で誘導しながらの撮影は大変でしたが、途中からは素晴らしいお芝居をたくさんしてくれました。カメラマンさんにごめんなさいしつつ、色調整をしながら、夕景用の猫を昼に使ったり、その逆もあったり……。役者さんも、そんな状況に付き合ってくださってありがたかったですし、僕としても「今後、猫の動きについて、脚本に無茶なことは書けないな」と思ったぐらい、いい経験になりました。

──『街の上で』に続く、オリジナル脚本となる城定監督とのコラボ企画は、今泉監督にとって、どのような経験になったと思いますか?

今泉 『街の上で』しかり、これまで人物もカメラもあまり動かさず、普通に会話しているのをじっと撮るということをやってきたと思うんです。そんな自分のオリジナル脚本を『愛なのに』として撮った城定監督は、カメラを動かしたり、とても豊かに撮られていたんです。自分の脚本でもこんな躍動的に、魅力的になるんだと感動したし多くを学びました。反省もありつつ、新たな発見もできた企画になったかなと思います。

大切なのは、決して笑わせようとして行動していないこと

──打ち合わせや現場に必ず持っていく、こだわりのモノやグッズがあえば教えてください。

今泉 持ちたくないものは持たないこだわりがあるなか、パイロットの水性ボールペン「ハイテックC」は、めっちゃ使っています。しかも、0.4ミリのブルーブラックとレッド。台本に書き込むとき、アイデアをノートに書くときなどは必至で、縁起担ぎで、台本の表紙をめくった1ページ目に「楽しむ」という文字を必ず書くのですが、そのときにも使っています。ただ、すぐになくしてしまうので、10本ぐらいまとめ買いをします(笑)。あと、新作の企画を一から考えるときなどは、ちょっと金額は高めですが、イタリアのブランド、モレスキンのノートをあえて購入して、気合を入れます。あと、反対に、絶対に現場に履いていかない古着のズボンがあります。それを履くと、天気予報が晴れでも、雨が降ってくるほど呪われているんですよ(笑)

──大阪NSCの26期生だった過去を持ち、近年も『キングオブコント2021』でオープニング映像を制作されるなど、お笑いにも造詣が深い今泉監督ですが、気になるお笑い芸人は?

今泉 『キングオブコント2021』で王者になった空気階段だけじゃなく、ザ・マミィやかが屋、男性ブランコなど、今のコント芸人さんは、自分が映画でやろうとしている笑いの作り方と同じ視点のものが多いと思うんです。なにかに困っていたり、気まずい状況に置かれた人たちが、ただただ真剣にそこにいて、それを端から見ると面白いと構図。大切なのは、決して笑わせようとして行動していないこと、というか。じつは昔の『天才バカボン』でも、すでにそんな笑いをやっていて、「赤塚不二夫さんは、やっぱりスゴいな!」と。ほかにも、金属バットとチェリー大作戦、TCクラクションなどに注目しています。

【今泉力哉さん撮りおろし写真】

【映画「猫は逃げた」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)監督:今泉力哉脚本:城定秀夫、今泉力哉出演:山本奈衣瑠、毎熊克哉、手島実優、井之脇海、伊藤俊介(オズワルド)、中村久美、芹澤興人、オセロ(猫)

(STORY)漫画家・町田亜子(山本)と週刊誌記者の広重(毎熊)は離婚間近の夫婦。広重は同僚の真実子(手島)と浮気中で、亜子は編集者の松山(井之脇)と体の関係を持ち、夫婦関係は冷え切っていた。2人は飼い猫カンタをどちらが引き取るかで揉めていたが、その矢先、カンタが家からいなくなってしまい……。

(C)2021『猫は逃げた』フィルムパートナーズ

(STAFF&CAST)監督:城定秀夫脚本:今泉力哉出演:瀬戸康史、さとうほなみ、河合優実、中島歩、向里祐香、丈太郎、毎熊克哉、オセロ(猫)

撮影/関根和弘 取材・文/くれい響