街中を行くタクシーのイメージ(画像:写真AC)
東京都内では約4万7000台のタクシーが、都心から下町、住宅街まで、まさに迷路のような道を日夜走り回っている。【画像】タクシー運転手の「年収」を見る(6枚)「その先を右に」「そこを左」。運転手は指示に応えてハンドルを握る。ここでは現役タクシー運転手の筆者が見てきた現場でのエピソードを紹介しつつ、タクシー業界が抱える課題を取り上げてみたい。※ ※ ※ 運転手たちの隠語に「センターに告げ口されたらヤバイ」というのがある。泣く子も黙るタクシーセンターとは、一体どのようなところなのか?
ここは1969(昭和44)年に設立されたタクシーの監督機関で、新任運転手の登録をしたり、地理試験の実施、優良運転手の表彰、街頭指導、また乗客からのさまざまな苦情を受け付けるところだ。 東京、大阪、神奈川にあって、都内は江東区の南砂に位置する。 苦情については、匿名の場合はその内容によることが多い一方、自身の実名を名乗って連絡してきた人については、どんな些細(ささい)なものでも対応する。 そして、ひとたび実名で通報されると、運転手には大変な事態が待っている。
街中を行くタクシーのイメージ(画像:写真AC)
「急ブレーキで危なかった」「言葉遣いが悪い」「話し掛けても知らんぷりして返事がない」「トランクサービスをしてくれない」…… 内容に軽重はあるものの、中には、そんなことまで……と思わずつぶやいてしまうようなものもある。 だがそうであったとしても、翌日、運転手と運行管理者はセンターまで出頭し、場合によっては数時間に及ぶ“説教”を受けることになる。 運転手は長時間の過酷運転でヘトヘトだし、運行管理者にしたって多忙の中、レコーダーをUSBメモリーに落とし込み、ノートパソコンを抱えて「弁明」に同行しなければならない。おまけに江東区南砂はどこの会社からも遠い場所にある。 例えば「急ブレーキで危なかった」という苦情。運転手は、意味もなく急ブレーキを掛けるわけでは決してなく、突発的な危険を回避するためにやむを得ずということは起こりうる。「言葉遣いが悪い」という苦情。運転手にはさまざまな来歴の人がいる。東北の漁師町出身という同僚もいた。抜けきらない郷里の言葉が、東京の人には妙に聞こえることもあるかもしれない。