【プロフィール】Takram野見山真人Creative Technologist / Technical Artist「感性 x エンジニアリング」をテーマに、サービスの設計からメディアアートの制作まで実用と象徴の軸を行き来しながら活動する。心の機微や人の行動原理を観察することで、感情に働きかける形を創造し、どこか捉えどころのない感性をエンジニアリングする。「感性 x エンジニアリング」を原動力に暮らしを豊かにするデザインを実現する。2018年に東京大学大学院(知能機械情報学)を修了。同年よりTakramに参加。
もくじ・個人の主体性を引き出す、オープンな情報共有・「知」の構造化を進めるデータベース活用・自分専用のタスク管理ページ「Dashboard」・メンバーとのつながりをつくる「メンバーページ」・最初から完成する仕組みはない
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TakramではNotionを活用して、情報共有とプロジェクト管理を行っています。
情報共有では、Takramのカルチャーやメンバー紹介、働き方のヒントや財務データなど、組織でストックしたい情報をまとめてメンバーに公開しています。
一方プロジェクト管理では、いくつかのデータベースを組み合わせることで、タスクやドキュメントの管理を効率化すると同時に、プロジェクトを横断した知の構造化を目指しています。
どのように情報共有やプロジェクト管理を行っているか、実際に画面をお見せしながら、ひとつひとつご紹介していきますね。
まず最初に、メンバーや組織に関する情報をまとめた「People & Organization」というページから、いくつか主要な項目をピックアップしてご紹介したいと思います。
■ How We Work...働き方のヒントを得る場所
「How We Work」では、仕事に役立つ様々なヒントが共有されています。機材やソフトウェアの使い方から、有給取得や経費精算に関するガイドラインまで。「これどうやるんだっけ?」と何か困ったときは、このページから必要な情報にアクセスできます。
たとえば「How We Notion」というページでは、Notionを導入した経緯やNotionを使いこなすためのヒントが詳細に記載されています。新しいメンバーが入ってきたときも、このページを読めばNotionを正しく使い始めることができます。このようにドキュメントを積極的に作成して非同期で情報共有することで、組織のパフォーマンスを高めています。
またTakramは東京とロンドン、ニューヨークに拠点があるため、ドキュメントを基本的に日英両方で書いています。多くの場合、母国語でドキュメントを作成した後に「DeepL」で翻訳して、英語ネイティブのメンバーと情報共有しています。時間と労力をかけずに情報共有のハードルを下げることがポイントです。
■ Open Book...経営指標や財務データを学ぶ場所
Takramでは「Open Book Policy」という施策に基づいて組織の経営指標や財務データが全メンバーに公開されています。Notionの「Open Book」ではこれらの経営指標や財務データに関する解説ドキュメントが載っています。メンバーが各自で経営指標や財務データを読み解けるように情報共有することで、プロジェクトに対するインベストメントが正しいかなど、自ら考えて判断できる環境を作っています。
このようにTakramでは情報の透明性を大事にしています。意思決定に必要な情報を組織全体で共有することで、各メンバーが主体性を持って動けるようになるからです。メンバー間で情報格差が生まれると、意思決定するための材料が欠けてしまい、誰かの指示を待たないと判断できない状況にもなりかねません。フラットな組織やカルチャーを作るためには、誰もが情報にアクセスできる状態を作ることが重要だと考えています。
■ Curiosity...メンバーの関心ごとを共有する場所
仕事と直接関係するわけではないのですが、メンバー個々人の関心ごとをゆるく共有しています。
たとえば、「Eats, Drink, Present」。ランチで行ってよかったお店や打ち上げ場所、おすすめのプレゼントなどを共有しています。
他にも、メンバーが購入した本を一覧で見れる「Bookshelf」。Takramでは、メンバーの学びを全面的にバックアップするために「Book Purchase」という制度があり、自由に書籍を購入することができます。
「Book Purchase」で購入する本は、Googleフォームで申請するフローになっていて、申請するとTakramのSlackに誰が何の本を、どんな理由で買ったのかが共有されます。Slackはリアルタイムでメンバーの興味関心を見るのに役立ちますが、フロー情報で流れてしまうので、Notion上にもストックできるようにしようとAPIで連携しました。
誰がどんな本を読んでいるのかが可視化されるので、見ているだけでとてもおもしろいです。自分もこの本買ってみようと、新しい本との出会いにもつながります。
ちなみにBookshelfのビューを活用して、購入された本のランキングも作っています。累計や月間で最も買われた本のランキングを見ることができます。
Takramではすべてのプロジェクトを「Projects」で管理し、メンバー全員がアクセスできるようにしています。
プロジェクトは各メンバーの活動の成果であり、Takramの輪郭を構成する重要な要素です。日頃からメンバー間でプロジェクトを共有することで、お互いの活動に対する理解を深めています。
プロジェクト管理をはじめ、Notion上で共有しているすべてのドキュメントは、Notionの大きな特徴のひとつでもある「リレーショナルデータベース」を活用しています。複数のデータベースを相互に関連付けて情報のリンクを作ることができます。
今まではツリー構造でドキュメントを作成していましたが、リレーショナルデータベースを効果的に活用することで知の構造化が進みました。プロジェクトや個人の中で閉じてしまいがちな「知(学び)」が、他のプロジェクトやメンバーも活かせるオープンな「知」に昇華できています。
またリレーショナルデータベースを活用すると、情報がいたずらに複製されて古くなるという状況を避けることができます。情報システムの領域で言及される「Single Source of Truth (信頼できる唯一の情報源)」を僕らも大事にしていて、常に最新の情報が1つだけある状態を作るように心がけています。
プロジェクトページには統一のテンプレートがあり、新たにプロジェクトを始めるときは「New」のボタンを押せば、すぐにプロジェクトページを作ることができます。
こちらがプロジェクトのテンプレートです。プロジェクトに参加していないメンバーがプロジェクトの詳細をキャッチアップできるように、いくつかテンプレートでこだわっている部分があるのでご紹介します。
■ Gallery...プロジェクトのイメージを共有する場所
「Gallery」ではプロジェクトに関する画像がメンバーによって貼られていきます。UI/UX系のプロジェクトであればUI画面が貼ってあったり、プロダクトデザイン系のプロジェクトであればプロダクトの写真やラフスケッチが描いてあったりします。
プロジェクトに携わっていないメンバーが訪れたときにプロジェクトの成果やプロセスを眺められる場所になっています。
■ Overview...プロジェクトのナレッジを共有する場所
「Overview」は、プロジェクトのナレッジを他のメンバーに伝えるための場所です。ここにプロジェクトのキックオフやレビュー(振り返り)のミーティングノートがまとめられます。
特にキックオフやレビューで用いるノートには、プロジェクトに関わる重要な情報やナレッジが含まれています。他のメンバーにプロジェクトを伝えるためのツールとしても有効なので、「Overview」としてアクセスしやすい場所に切り出しています。
キックオフやレビューのミーティングノートにはTakramで統一のテンプレートがあります。利用の際のガイドも表記しているため、どこに何を書くのかを抜けもれなく記録することができます。
レビューのテンプレート
「Method & Approach」というデータベースではプロジェクトで行ったユニークな手法やアプローチを記録しています。
この「Method & Approach」のデータベースは、すべてのプロジェクトを横断して利用されます。そのためデータベースのビュー機能をうまく活用することで、過去に行ったすべてのプロジェクトの中から前例をカンタンに調べることができます。
たとえばチームコミュニケーションでフィルタリングをすれば、様々なプロジェクトで実践されたチームコミュニケーションのノウハウ一覧にアクセスできます。
他にも「Risk Hedging」というカテゴリもあります。過去にTakramで起きたインシデントやヒヤリハットの経験に基づいて、リスク回避のために抑えるべき手法やアプローチを一覧することができます。
Takramでは、特定の専門領域を深堀りすることと合わせて、異なる領域に越境することを大切にしています。異なる領域への越境を積極的に起こすためにも、データベースを通じたナレッジシェアはもちろん、月に1度のプロジェクト共有会をメンバー全員で実施しています。(現在はオンラインで実施)
同時に進行しているプロジェクトがたくさんあるため、プロジェクト共有会では興味のあるプロジェクトを1つ選んで発表を聴きます。発表を聴けなかった他のプロジェクトについても、発表資料や録画した動画がNotionにアップロードされるので後からキャッチアップすることができます。
コロナ禍でリモートワークがメインになってからは特に、顔を合わせてのミーティングだけでなく、「非同期でのコミュニケーション」を重視するようになりました。最近では一人で考えたアイデアをぼやいて解説する「生煮えレコーディング」の共有もTakramで流行っています。
■ Tagrid …さまざまな切り口でプロジェクトを探せる場所
プロジェクトに関連して、最近できた新しいデータベースビューがあります。「Tagrid(タグリッド)」というデータベースビューで、ここではさまざまな切り口でプロジェクトを一覧化することができます。
最近Takramがどんなプロジェクトに携わっているのか、過去にUI/UX系のプロジェクトでどんなものがあったのか。該当するカテゴリを選択すると、一覧で見られるようになっています。自分が担当しているプロジェクトが行き詰まったとき、Tagridを見れば近しいプロジェクトにアクセスでき、参考になるヒントを得ることができます。
Notionの各データベースがメンバーと紐づいていることを利用して、データベースのフィルター機能で自分専用のタスク管理ページ「Dashboard」を運用しています。
複数のプロジェクトを跨いだタスク管理や、直近で使った議事録をまとめられるので、別のツールでタスク管理をする必要がなくなりました。
毎朝このダッシュボードを見つめる時間を10分くらい作って、消化できていないタスクや粒度が荒すぎるタスクがないかを、確認・整理する時間を作っています。
Takramのメンバーデータベースの各ページには、メンバーの自己紹介が記載されています。自分が携わったプロジェクトやアウトプットをまとめて公開することで、自分のスキルや経験を他のメンバーがひと目でわかるようにしています。
自己紹介ページには、「Dream Project」といって、「これからこんなお仕事にチャレンジしてみたい!」という夢を書く項目も載せています。メンバー全員がアクセスできるところに個人として「できること」や「やりたいこと」を書くことで、プロジェクトで声をかけてもらう機会にもつながります。自分がどんなことに関心があってどんな目標を持っているのかメンバーと共有して、チーム内の相互理解を深めて高いパフォーマンスを発揮できる環境を作りたいと考えています。
ここまで、TakramでのNotion活用方法を色々とお伝えしてきましたが、最初から今の形になっていたわけではありません。これからNotionをチームで活用していきたい!という方にオススメなのは普段一番作られているドキュメントからNotionで運用を始めてみることです。議事録だったり、タスク管理だったり。使用頻度の高いものから始めてみることで、徐々に慣れてチームの中に浸透していくはず。
「最初から完成する仕組みはない」とある意味割り切って、小さく始めてみることが大事だと思います。どれだけ考えて設計しても、実際に使ってみないと課題やニーズもわかりません。少人数でまず試してみて、フィードバックをもらう。チームで議論して、直していく。その繰り返しをしながら、どんどんアップデートしていくとよりチームにフィットした活用方法を模索できると思います。
(終わり)
取材 / 文 = 野村愛