『救命センター カンファレンス・ノート』の作者・浜辺祐一氏
累計118万部の人気シリーズ最新作が刊行、『救命センター カンファレンス・ノート』の作者・浜辺祐一氏は、都立墨東病院救命センターの現役部長。臨場感溢れる描写は秀逸で、2作目ではエッセイスト・クラブ賞も受賞している。医療エンタメとして楽しめる一方で、登場人物のやりとりからは社会の在り方も問われ、ある種、禅問答の様相すらはらむ。来年3月に定年を迎える浜辺氏に、救命救急医療の現状からコロナ禍がもたらしたものまで前編記事に続き、お話しいただいた。■多くの人が見ている世界とは違う――では、これまで書き続けたのはこれを知ってほしい、訴えたいという積み重ねでしょうか?浜辺 実は、別に救命センターのことを知ってほしいとか救命救急の現場がどうとか、そういうドキュメンタリー的な話がしたいんじゃなくて、もっとベーシックな、あるいは身近なことで、看護師に向けて話しているようなね、いわば、人生のワンポイントレッスンというつもりだったの。若かったのに生意気だよね(笑)。だって最初の本の原稿を書き出した頃は30代になったばかりだよ。――それがまさに身近な共感を覚えるというか。医療用語が飛び交う臨場感に手に汗握る一方で、家族の複雑な心境が垣間見えたり、人としての在り方を問われる部分も。浜辺 そういう風に受け取ってもらえればね。僕はもう、文章的な描写が下手くそなんで(笑)。それに、医者で救命センターをやっている以上、医学的なことに触れないわけにはいかなくて、難しいことを書きすぎなんですよ。ただ、こういう文章にする以外の方法論が僕にはないのでね。だから、こんなのによくぞエッセイスト・クラブ賞をくれたなっていう感じですよ。――いや、やはり迫力もですし「見ている現実が違う」のがありありと伝わりますから。浜辺 きっと多くの人が見てる世界とは違う世界に自分がいるから、見えるものが違う。だからそこで思ったこと、感じたことは言わなきゃいけない、むしろ感じなきゃいけないっていうかね。何が起きているかではなく、そこで感じたこと、わかったことを伝えなきゃいけないんだというのは最初からあったんです。――植物状態や四肢切断となっても命をつなぐ是非や、どこまで医療介入するべきかなど、若い医師の言動を通して「医療の在り方」を考えさせられ読み応えがあります。浜辺 若い医者の苦悩という体裁で書いたものの中には、僕自身の悩みもあるし「若い連中にもそう思っていてほしい」っていうものもあって......。実は以前、TVドラマ化っていう話もあったんだけど、脚本まで書いて持ってこられて、それを読んだら大病院の御曹司が主人公で、美人ナースと一緒に救急をやっていてという、なんだか、いかにも昼メロチックな......。――(笑)。浜辺 いや、TVドラマとしちゃ面白いんだろうけど、僕が言いたいのはそうじゃないんだ、筆でしか伝えられないことなんだって、生意気に書き続けていたわけですよ。