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個人の創造と情熱、小さな経済の到来と課題

書かれた 沿って notbook

元a16zのJi Linさん(現在はシードVC、 Atelier創業者・マネージングパートナー )が2019年に提唱した個人による新しい経済活動のトレンド「The Passion Economy and the Future of Work 」は、従来のギグ・エコノミーとは異なる、個性あるクリエイティブな熱量の経済活動として世界的にも大きな反響を呼びました。

「かつてのオンライン労働市場が労働者の個性を均一化したのに対し、新たなプラットフォームは誰もがユニークなスキルの収益化を可能にしようとしています。ギグワークがなくなることはありませんが、創造性を活用する方法は他にも生まれているのです。ユーザーはビデオゲームをプレイしたりビデオコンテンツを制作したりすることで大規模な視聴者を獲得し、情熱をビジネスに変えることができるようになったのです(パッションエコノミーより)」。

これまでもインフルエンサーなどの活躍で、国内の小学生たちがなりたい 職業ランキングにYouTuberが上位躍進 するなど、個人を中心としたクリエイティブな経済活動は徐々に社会的な認知をとりつつありました。そして7月8日にはBASEやnote、UUUMといった個人の経済活動をエンパワメントするスタートアップ7社が協力してクリエイターエコノミー協会を発足させています。

協会では個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏「クリエイターエコノミー」をひとつの産業と定義し、この普及に向けて(1)クリエイティブ活動の普及・促進(2)クリエイターの保護(3)クリエイターの活躍を促進するための政策提言も実施するとしています。2021年の市場規模は1042億円規模という試算もあるそうで、世界市場では約5000万人の個人クリエイターやインフルエンサーが活動しており、その内、200万人がフルタイムで 取り組んでいるそうです。

個人がクリエイティブ活動で経済活動をする方法としてパッと思いつくのはやはりYouTuberを発端とするインフルエンサー活動ですが、中でも大きな市場になりつつあるのがライブコマースの世界です。WalmartがTikTokと組んで展開しているキャンペーンのように従来のインフルエンサーを活用したマーケティング的なアプローチもありつつ、やはり興味深いのは個人が直接、消費者にモノを販売する世界観だと思います。

先日、1億ドルの評価額で資金調達を発表したPopshop Liveはまさにそのひとつです。個人がスマホひとつでライブコマースできるプラットフォームを展開しており、個性的なセラーがエンターテインメント性を加えて思い思いの商品をプレゼンテーションしています。チャットでインタラクションしながら販売するのがライブコマースの特徴ですが、同社のリリースによると、8割の消費者が30日以内にリピートするそうです。同様のサービスとしてNTWRKやBambuser、国内ではサービスコマースを展開するMOSHが躍進しているようです。

個人の創造と情熱、小さな経済の到来と課題

Statistaの市場レポートによると、 中国のライブコマース市場は2018年に1330億元(日本円で約2.26兆円)だったものが2019年に4330億元(日本円で約7.36.兆円)、2020年には9610億元(日本円で約16.3兆円)と年次で倍々ゲームになっていることがわかります。ライブコマースそのものはパッションエコノミーとイコールではありませんが、より個性や個人の活躍が与える影響が大きいフォーマットなだけに、個人が活躍する経済活動が成長市場のモメンタムの中にあるとみるのは間違いなさそうです。

もちろん、ライブコマース以外にもパッションエコノミーで期待されるサービスは数多くあります。Linさんの整理では、パッションエコノミーのプラットフォームに次のような特徴があると指摘しています。

メールマガジン配信サービスのSubstackやClubhouse、前述したPopshop Liveのように個人がスマホひとつで情報発信やコマースを手がけるプラットフォームは数多くなりました。また、ブロックチェーン技術によるNFTの考え方はOpenSeaや国内のFiNANCiEのように個人でも唯一無二のデジタル権利を売買できるという点でさらに可能性を広げています。さらにWebflowやGlide、Yappliといったノーコードツールの普及によって、個人でも高い開発能力を手にすることができるようになっています。

個人はこれらのツールやプラットフォームを使い、ゲームプレイやデジタルコンテンツ、リアルに制作した商品の販売を通じてより気軽に経済活動を興すことが可能になったのです。

個人が活躍する経済活動は、誰もが参加でき、今までの企業という単位とは異なる選択肢を与えてくれる点で社会に多様性をもたらしてくれると思います。一方、課題も当然ながらあります。今回発足したクリエイターエコノミー協会が約2400名に対して取ったアンケートによると、クリエイターの不安として挙げられているのは「創作活動への支援」「法律やお金についての知識」「トラブルについての対応策」なのだそうです。

特にお金にまつわる問題は一般的な法人と異なり、資本の面でどうしても不安が残ります。これは海外でも同様のケースがあるようで、例えば最近、2600万ドルの調達に成功したKarat FinancialはYouTuberなどの クリエイターに特化したコーポレートカードを提供しています。

「彼らは、中小企業が一般的な金融サービスに期待するようなサービスを受けていないことがわかったのです。毎月50万ドルを稼いでいるTwitchストリーマーのトップ10が大手銀行から与えられていた与信はたったの2万ドルしかなかったのです」(Karat Financial創業者のKim氏)。

このように資本金を融資や株式で調達し、それを元に商品を販売して利益を得るという基本的なビジネスフローが崩れる場合、それ以外の成長戦略を立てる必要があります。マンガ発見のプラットフォーム「アル」を展開する古川健介(けんすう)さんが提唱しているプロセス・エコノミーもそのひとつです。通常、クリエイターがアウトプットした制作物を対価として売上・利益を得るわけですが、彼はその過程そのものを対価とするある種の「ファン経済圏」をこの考え方の中で提案しています。

制作過程をファンと一緒に楽しんでギフトを買ってもらったり、最近ではリクエスト機能というサービスを提供し、ファンとクリエイターがより経済的にもつながる仕組みを作ろうと 試行錯誤しているようです。 信用とお金の問題はパッションエコノミーを考える上で大きなペインとなるはずなので、ここには市場が立ち上がる今、チャンスがあると言えるのではないでしょうか。

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