前回は、MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用したBtoB(法人向けビジネス)におけるクロスセル施策の重要ポイントについて、シナリオを交えて紹介しました。今回は「休眠顧客の掘り起こし」をテーマに、シナリオの考え方を説明します。なお「休眠顧客」とは、広い意味では「過去に一度は取引が発生したものの、現在は購入や取引がない、休眠化したクライアント企業」のことです。今回は休眠顧客を「失注顧客」と定義した上で、話を進めていきます。
取引が長期化しやすく、取引金額も大きいBtoBにおいて、見込顧客の休眠化は多々発生します。案件が成約間近だったとしても、稟議(りんぎ)や決済などの承認フローも各社で異なる中、何らかのタイミングが合わずに取りこぼす、という経験をしている方も少なくないのではないでしょうか。
失注顧客の掘り起こしとは、コンペに負けた、もしくは購入タイミングが合わなかった、などの理由で受注を逃したクライアント企業を再度アクティブな状態に持ち上げることですが、その実現はMAを活用しても難しいものです。なぜなら、企業は一度決断した購入を覆すことはまずないからです。自社が失注した時点で、他の競合製品の購入を決定しているケースがほとんどでしょう。
しかし、難しいとはいえ、掘り起こし施策は実施する価値が十分にあります。新規顧客を獲得し続けることが難しい中、掘り起こしが成功すれば、クライアント企業からの信頼度が増し、やがて大きなチャンスにつながる可能性があります。失注顧客を自社が保有する資産と考えた時、そのまま寝かせて放置しておくよりも、できる限りの施策を施して再度資産化する努力を行うべきなのです。
前回のクロスセルのシナリオでも述べましたが、今回も同じく、失注顧客掘り起こしの成功確率を上げるための重要ポイントは、マーケティング部門と営業部門との情報連携です。
まず大切なことは、失注が確定した際、営業担当がクライアント企業から失注理由を丁寧に聞き出すことです。できればその際、メールだけの対応ではなく対面にてお礼に伺い(コロナ禍ではオンラインでも)、自社が真摯(しんし)に取り組む姿勢をクライアント企業に示すことが望ましいでしょう。
対面をお勧めする理由は、失注理由を詳細にヒアリングするという目的も当然ありますが、もしあなたがクライアント企業の立場だったら、と考えてみてください。今まで活発にやりとりしていた企業が、失注を機にプツリと連絡が途絶えてしまった場合、どう思うでしょう。おそらく、その企業への印象は少なからず悪くなるのではないでしょうか。お断りしたけれども、最後まで丁寧に対応してくれた、というポジティブな印象をクライアント企業が持ってくれれば、その後メール連絡をした際に良い反応を得やすくなります。逆に、一度ネガティブな印象を持たれてしまうと、以後どんなに連絡を取ろうとしても、反応は望めなくなるでしょう。
また、失注したクライアント企業の中には、他社製品を導入したが想定した状況にならない/効果が出ない、というケースも一定数存在します。そのような時、クライアント企業は導入後しばらく経ってから、製品の見直しを図るために再度他の企業に連絡を入れるものです。失注時に真摯な対応をしていれば、その時の連絡先候補に入る確率が高くなりますし、あらかじめ失注理由を詳しく聞けていれば、オファーがあった時に素早く問題解決策を提案することができるため、競合企業より有利に商談を進められる可能性があります。
このように、失注後に行った営業部門の対応が、その後マーケティング部門から送るメールの効果を左右するのです。クライアント企業に対する企業努力を行い、一貫して真摯な態度で接触しておくことは、失注顧客掘り起こしの難易度を段違いに変えます。上述したように、MAの活用だけで失注顧客の掘り起こしを成功させることは非常に難しいため、営業部門の協力を得て、普段から密な情報交換を行っておくべきでしょう。