あわや重大な事態を引き起こしそうになり、全身から血の気がひいてしまったことはありませんか? 医療を中心とした仕事の現場では、そうした事象を「ヒヤリ・ハット」と呼んでいます。
一般のビジネスパーソンでも、このヒヤリ・ハットをノートにつけておくと、仕事のミス軽減に役立つそうですよ。最近ミスが多いなあと感じている方におすすめです。筆者もチャレンジしてみました。
「アクシデント」は不慮のできごとや事故、災難を指します。
「インシデント」は事故などが発生する前に発見されたことや、小さなミスはあったけれど、結果として大きな影響を及ぼすに至らなかったことなどを指します。今回のテーマである「ヒヤリ・ハット」は、このインシデントの同義語として用いられることが多い言葉です。
突発的なことやミスに “ヒヤリ” としたり、“ハッと” したりする心情がよく表れており、「インシデントレポート」より親しみやすいので、安全対策の普及啓発に優れた表現だと考えられています。
日本医療機能評価機構は、医療機関から報告された「重大な事故には至らなかったものの、あと一歩で直結しそうだった、あるいは直結してもおかしくない状況であったヒヤリ・ハット事例」を集め、分析して提供し、医療の安全推進を図っています。
航空機関にも、航空安全情報自発報告制度があり、ヒヤリ・ハット事例の収集・共有・分析・改善の提案などが行われています。
そうした取り組みが行われるようになったのは、重大な事故や災害の裏に、ヒヤリ・ハットが存在していると説いた理論が提唱されたからです。1929年代に「ハインリッヒの法則」としてアメリカで発表されました。
アメリカの損害保険会社に勤務していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏は、労災事故の発生確率を調査したそうです。そして、
「1件の重大事故の背後に、29件の軽微な事故があり、さらに事故につながりかねない300件のヒヤリ・ハットがある」といった法則を導き出しました。これが「ハインリッヒの法則」です。「1:29:300の法則」とも呼ばれています。 その背後には、またさらに数千、数万の危険な行為が潜んでいるのだとか。
しかし、数多くの前触れ(ヒヤリ・ハット)を認識し、経験則として有効に活かせば、軽微な事故や災害を防げるはずです。そうなれば当然、重大な事故も発生しにくくなるわけです。
(※『 Wikipedia|ヒヤリ・ハット』内の図を参考に筆者が作成)
医療現場ではヒヤリ・ハットの報告義務がありますが、一般企業ではあまり義務づけられていません。
しかし、株式会社ヴィタミンM・代表取締役の鈴木真理子氏は、ミスを防ぐセルフチェックポイントになるので、一般的なビジネスパーソンにとってもヒヤリ・ハットは宝の山だと述べています。
たとえば同氏は、以前の消費税引き上げの際、数年ぶりに依頼を受けた会社への請求書の消費税を、変更せずに作成してしまったそう。その請求書が入った封書を投函する前に気づき、ヒヤリとしたそうです。その経験を、のちに活かそうと考えたのだとか。
「ミスをしない人には共通して“記録”する習慣がある」と同氏。ノートにヒヤリ・ハットの事実を記録し、原因や対策などを書いておくようすすめています。
ヒヤリ・ハットに気づく環境を自らつくり、ミスをなくしていくわけですね。 では、筆者もさっそくやってみます!
厚生労働省より委託され富士通株式会社が実施する「あんぜんプロジェクト」では、「見える安全活動コンクール」が行われています。
その中で、過去の優良な活動事例として紹介されていた、日本水産株式会社 鹿島工場の「ヒヤリ・ハット改善の見える化」が、非常にわかりやすかったので、こちらを参考(※)にさせていただきます。(※進化するヒヤリハット報告)
ちなみに、同社が述べる進化とは次のこと。
そこで筆者は、次の2ステップで記録していくことにしました。
まずは、日々のヒヤリ・ハットを、どんどん手書きでランダムに記録していきます。あとで整理するので汚くてもOK。とにかく事例をしっかりと残していくことが目的です。それに、ノートに手書きすると、記憶が定着しやすくなるとのこと。
これらをエクセルで一覧化します。項目は
の6つにしました。「改善」の項目は、講じた対策を実行できたかどうかを示します。処理できたなら「〇」。対策がまだ明確ではない、完全ではない、未処理の場合は、「△」にしておきます。
たとえば、こんな内容です。
【カテゴリ】:仕事【ヒヤリ・ハット】再確認せずに時間変更のメールを送りそうになってしまった。【原因】:連絡作業を終わらせることだけを考え、注意を怠っていた。【起こりうること】:再々変更で、相手の手間をとらせる。気分を害される。【対策】:メールの、送信取り消し機能を再度ONにする。【改善】:〇
ちなみに、一覧を手書きではなくエクセル表にしたのは、情報が増えるほど分類が必要になるからです。
ランダムに書いていく手書きノートは思いつくままの順番で書き、エクセル表のほうは、増えるごとにカテゴリー分けしていき、位置を変えたりまとめたりして、探しやすく、見やすくしていきます。
今回やってみて、実際に効果を感じたのは、どちらかというとエクセルに整理しているときでした。改善に導くささいな行動に気づくことができ、対策が具体的になり、実際に行動へとつなげられたからです。
もちろん、ヒヤリ・ハットを記録しなければ始まらないので、記録そのものは重要です。しかし、「よし、気をつけなきゃ」だけで終わってしまったら、またもやヒヤリとしたり、ハッとしたりする可能性は大。
内容を整理して具体的な策を講じ、それを実行してこそ、安全な状態を確保できるというもの。それに「〇」マークをつけるのも“なかなかの達成感”です。感情がともなうので、注意すべきことが印象深くなりますよ。
また、安全対策がとられていないものには「△」マークがついているので、ヒヤリ・ハット記録を見なおす習慣に導いてくれるでしょう。
したがって――
――は絶対におすすめです!
***仕事のミスをなくすために「ヒヤリ・ハット」ノートをつけて、管理してみました。ぜひ、これで仕事のミスをグンと少なくしてくださいね。
(参考)日経doors|その「ヒヤリ・ハット」は宝です 仕事で活かす方法 (1/3)SMBCコンサルティング|仕事のミスが激減する「手帳」「メモ」「ノート」術公益財団法人日本医療機能評価機構|医療事故情報収集等事業:医療安全情報|事業の内容と参加方法VOICES(航空輸送技術研究センター)|航空安全情報自発報告制度あんぜんプロジェクト|結果発表|進化するヒヤリハット報告コトバンク|ハインリッヒの法則(はいんりっひのほうそく)とはイワツキ株式会社|ヒヤリ・ハットとはWikipedia|日本医療機能評価機構Wikipedia|ヒヤリ・ハット
【ライタープロフィール】STUDY HACKER 編集部「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。