今春からのABCテレビ「新婚さんいらっしゃい!」の新司会者として名前が挙がっている藤井隆さん。
実際、僕が取材する中でもそれが既定路線だと聞きます。
長年に渡り同番組の司会を担当し、3月で勇退する落語家・桂文枝さんの後任となるだけに否応なく注目が集まります。
番組自体が日本を代表する長寿番組にもなっているだけに、あらゆる重圧が藤井さんにのしかかるとは思いますが、幾度となく取材をし、拙連載でのインタビューもしてきた中で、プレッシャーに負けない芯の強さ、頑健さを感じてきました。
「これで干されているなら、御の字」
2019年10月にアップしたYahoo!拙連載の取材時に出た藤井さんの言葉です。
大阪時代、吉本新喜劇の座員として優れた瞬発力とギャグで注目を集め、関西の人気者として認知されてから半年ほどで全国区のスターになりました。
ここの“出世の瞬発力”もすさまじく、なんば花月で次の出演者を知らせる“めくり”をネタのスタイルに合わせて“落語”から“漫談”に作り直していたが、新たなめくりが出来上がってきた頃には東京でスターになっていた明石家さんまさんのスピード感にひけを取らない駆け上がり方。
すぐさま藤井さんは東京のテレビ番組から引っ張りだこになるわけですが、元来あこがれがあったミュージカルへの思いも高まり、東野幸治さんの後押しもあって、その世界に没頭します。
当然、舞台に注力すれば、テレビに出る時間は減ります。その部分をとらえて、インターネットなどでいろいろな声が飛び交いました。
「売れてて調子に乗ってたから干されたんじゃないか」
「てんぐになっていたから、当然のこと」
そんな向きに対する思いとして、ふんだんに笑いをまぶしながら話したのが冒頭の言葉でした。
恵まれた環境を与えてくれているスタッフさんへの感謝。そして、自分の“腕”へのプロのプライド。そんな思いが凝縮されている気がして、この言葉を記事の見出しにもしました。
ギャグやハイテンションなパフォーマンスに代表されるようなポップな顔。それと、曲作りや他のタレントのプロデュースを行う職人としての顔。この二つをどちらも高次元で持ち合わせる。
実は、この構図は桂文枝さんと同じもの。「いらっしゃ~い!」とおどけるポップなテレビスターの顔と、創作落語に代表されるモノ作りの職人としての顔。両方の顔を持っていたのが文枝さんの特徴でもありました。
万人受けする空中殺法で観客を盛り上げ、道場でのガチンコも強い。文枝さんと同じスタイルを使いつつも、そこに藤井隆という個性も乗っかってくる。何とも色香漂う船出に香ばしいフレーバーが漂います。
また、藤井さん自身の取材ではありませんが、タレントの中村静香さんへのインタビューで中村さんが人生の恩人として藤井さんの名前を挙げ、語った言葉も実に印象的でした。
私が迷いそうになった時に必ずその人のことを思い出すという方がいまして。それが、藤井隆さんなんです。
そもそも、デビューのきっかけは藤井さんが司会をされていた読売テレビ「プチドル」でした。その番組で世に出していただいて、そこから今の事務所のコンテストを受けて現在に至るんですけど、当時はまだ何も分からない十代の女の子でしたから。
それこそ、藤井さんにも負担をかけまくりだったと思います。でも、番組がスタートして最終回を迎えるまで、ずっと真正面からこちらと向き合ってくださったといいますか。
そして、言ってくださる言葉が全て前向きで、温かいんです。全部が背中を押してくれるといいますか。今思い出しても、ただただありがたいなと。
番組の中でアイドルグループを作るという企画で、私はその一員だったんです。最終回を迎える時も「グループとしては一区切りだけど、これまで番組を見てくださった視聴者の方もいるし、支えてくださったスタッフさんもいる。だから、感謝は忘れずに最終回の収録も思いっきり頑張ろうね」と…。
そんな年齢ではないけれど、私は勝手に“芸能界の父”だと思っています(笑)。自分がブレそうになったら思い出すのは藤井さんの言葉なんです。
完成したものに新風を吹き込む。これほど難しいことはありませんが、定番がどう進化するのか。まだ見ぬ味に期待が高まります。