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すべての企業は「体験企業」であり、「体験ビジネス」であるという。それはホテルであろうが、靴屋だろうが、銀行だろうが、業種に関係なく、優れた体験に必ず見られる5つの条件が存在するという。ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で解説します。
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すべての企業は「体験企業」であり「体験ビジネス」であると書いた。とりわけ注目したいのは、これから紹介する優れた体験に必ず見られる5つの重要な特徴だ。ホテルだろうが、靴屋だろうが、銀行だろうが、業種は関係ない。真に心に残る体験は、以下に挙げる要素のほとんど、あるいは全部を備えているのである。さて、その卓越した体験につきものの要素とは……。(1)サプライズ優れた体験には、どこかでサプライズがある。つまり、思いがけない楽しさを感じさせてくれる要素がある。たとえば、アリババが運営する食品スーパーの盒馬鮮生(Freshippo)の店舗では、一般的なスーパーではお目にかかれないような商品がたくさんある。店内のどの商品もQRコードがついていて、買い物客が携帯電話でスキャンすると、鮮度や生産者・流通履歴、原材料などの情報が見られる。また、その場でスキャンしてオンライン注文に加えておけば、宅配もしてくれる。店内で買い物中でも、オンラインで注文した商品は、インストアショッパーと呼ばれる専任スタッフが、店内の売り場で次々にピッキングしていく。そして、ピッキング後のカゴは店内の天井に張り巡らされたコンベアで、店舗バックヤードに運ばれて配送されていく。また、店内で生鮮品を選んで調理してもらい、同じ店内にあるカフェで食べることも可能だ。しかも、このカフェではロボットが働いている。これだけでも十分にサプライズが詰まっていると思うが、まだ続きがある。買い物を終えた後の荷物を気にする必要はない。30分ほどで購入品はまるごと自宅に届けられるからだ。顧客に心地よいサプライズを与え、思いがけずうれしくなるような付加価値を提供する力は、優れた体験を生み出す鍵である。(2) 独自性カテゴリーにありがちな筋書きに変化を加えることで、独自性のある体験を生み出すことができる。ここで言う「筋書き」とは、同じカテゴリーの競合が提供していそうな典型的な体験を意味する。同じ業界にいる競合各社は、同じ見本市を訪れたり、同じ業界専門紙誌を読んだりしているだろうし、ひょっとしたらコンサルタントまで同じかもしれない。その結果はご想像のとおり。ほとんどの靴屋の売り方は似通ってくる。ほとんどの銀行は同じ営業スタイルになる。ほとんどの食品スーパーは、標準的な買い物体験をこぞって採用するだけなのだ。だが、ある企業が勇気を出してその手の筋書きを破ると、あっと驚くことが起こる可能性がある。たとえば、書店の淘汰が進み、街では見かけることも珍しくなりつつある今、東京のある書店があらゆるルールを破る決断を下した。それが「文喫(ぶんきつ)」という書店である。クリエイティブエージェンシー1社と書店2社の協業で、いわゆる書店であるとともに、ギャラリーとしての体験も味わえる。まず入場料がある。そう、書店なのに入場料を払うのだ。店に入るだけで1500円を払う必要がある。だが、入場料にはコーヒーと緑茶の飲み放題が含まれ、店内にある3万冊以上の書籍が1日中楽しめる。独自性はこれだけでない。一般的な書店では、ジャンルやタイトルに沿って売り場づくりをする。だが、文喫は、すべてとは言わないまでも、基本的にそういう売り場づくりをしない。たとえば、赤い色の本を1カ所にまとめたコーナーがあったりする。かと思えば、一部の本がわざと隠されていて、客が店内で宝探しを楽しめる仕掛けもある。さらに、終日滞在できる入場料を払った客だけが利用できる店内併設の小さなカフェもある。文喫が他の書店と一線を画するポイントは、このように他店では味わえない独特の要素を含めた体験があるからだ。
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最終更新:幻冬舎ゴールドオンライン